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平成28年度埼玉輸血セミナー(資料)より

自己血輸血Q&A

自己血輸血の説明・同意書・スケジュール

自己血採血のメリットをどう患者さんに説明しますか?

赤血球の血液型は約37種類あり、同種血輸血において、すべての血液型を一致させた赤血球製剤を準備して輸血することは、検査試薬の制限や時間の制限のため現実的には出来ません。免疫原性が強い(合わないと強い免疫反応を生じる性質)ABO型とRhD型のみを一致させて輸血製剤を準備します。
輸血を繰り返すような場合は、ABO型とRhD型以外の血液型物質が輸血される機会が増えるため、抗体(後天性に産生される)が新たに産生される場合が稀に生じます。この抗体を不規則抗体と呼びます。同種輸血(献血で提供された日赤血液を輸血すること)では輸血を受けた患者さんの約2%に各種の血液型に対する不規則抗体が産生されると報告があります。不規則抗体を持った患者さんの血清(血漿)とそれに対応する抗原を持った同種血の赤血球とは試験管の中で反応させると赤血球凝集が認められ、輸血用には適切でない・輸血は出来るだけ避ける製剤と判定されます。その場合は時間をかけて不規則抗体の対応する血液型抗原を精密検査し、その抗原が陰性でかつABO型、RhD型が一致する輸血用製剤を日赤から供給してもらう必要があります。精密検査に時間がかかる場合には手術のタイミングに適切な輸血製剤が確保できない場合もおきます。
自己血輸血では赤血球はすべて本人と完全一致するため不規則抗体が産生されるリスクはありません。
同種血輸血にはその他に種々の免疫反応が生じる場合があり、それは多くの場合、他人の血漿タンパクに対するアレルギー反応とされています。自己血輸血では血漿も本人のものであるため血漿に由来するアレルギーも回避が出来ます。

同意書に記載すべき項目はどのようなものですか?

@手術までの期間によっては必要量が全量採血できないこと。
1回に400mL採血することは循環血液量の10〜15%分の血液を急速に失うことになります。献血では次の献血タイミングは6~8週後となりますが、自己血採血の場合は翌週にも採血することを3回、4回繰り返す場合もあります。しかし十分な術前期間が無い場合には、必要量の自己血を全量採血することは出来ない場合があります。
手術までに十分な期間があっても採血時に予期せぬ体調変化(自己血採血の場合は血管迷走神経反射など)が生じることがあります。その際は次の採血が出来るかどうかはその都度判断されることになります。また採血後の造血回復が不良で次の採血時に許容できるヘモグロビン値に達しない場合には採血が出来ません。十分なレベルにヘモグロビン値が戻るまで延期されることになります。
自己血輸血は主に赤血球と血漿成分(血液を遠心分離して赤血球と血漿に分離し、後者を別のバッグに収納して凍結保存して保管します。新鮮凍結血漿)だけが準備できます。施設に血液バッグをそのまま遠心できる大型遠心機が設置されていない場合は、全血(採血したままの状態)での準備になります。この際、血漿の中に含まれている各種凝固因子の活性は保存期間中に徐々に低下しますが、分離して凍結保存した新鮮凍結血漿では凝固因子活性の低下を防ぐことが出来ます。
自己の血小板は更に大掛かりな血小板だけを選択的に採取できる装置(成分採血装置)が無いと採取できないため、殆どの施設で対応していません。また一旦採取した血小板は保管期間が採血後4日間と短いため、手術時に利用するのは大変難しい製剤です。
A輸血の必要がない場合は廃棄すること。
自己血採血した日時によって有効期間が違いますが、それを過ぎても輸血する必要がないくらいヘモグロビンが維持されていれば自己血は廃棄されます。一部の施設で新鮮凍結血漿分画を分離して保管している施設では採血後1年を期限に保管することもあります。
B何らかのトラブルが発生し輸血できない場合があること。
保管中にバッグが破損した場合や、手術の後に輸血しようとしても輸血ラインの目詰まりがあり輸血が十分にできない場合には、輸血を諦めることになります。
C輸血しなかった製剤を他の患者へ転用しないこと。
自己血はご本人に輸血にのみ利用する製剤です。使用しない場合でも他の患者さんには輸血されません。

最初の手術をした際にもらった同意書は2回目の手術をする際にも有効ですか?

同意書取得に関しては、「一連の医療行為ごとに1回同意を取る必要がある」とされています。2回目の手術時には新たに取ります。また輸血の目的が異なってきた場合は、別途説明し同意を得ましょう。

輸血同意書と自己血輸血同意書は別に用意すべきですか?

輸血の目的、製剤の種類、血液が不足した際の症状、輸血副作用、輸血目的と予定量などについては同種血も自己血も説明書の中にはオーバーラップする記載があるので、施設の判断で同じ書式の中に網羅することもできます。輸血全体に占める自己血輸血の割合が少ない施設では別々に準備することが多いと思います。施設によって方針を決めることでOKです。

患者さんがリラックスする方法を教えて下さい。

採血室に入ってきた時からよく声をかけましょう。趣味、好きなスポーツ、クラブ活動、ペット、猫派か犬派か、好きなテレビ番組など日常生活で何に興味を持っているか聞き出しましょう。
話の内容にはできるだけ同意します。否定はしないように注意しましょう。患者から次の話が出るように雰囲気作りをします。
珍しい苗字の患者さんの場合はその由来、日本のどの地方、町に多いのかなど聞いてみましょう。会話の出発になる可能性が時々あります。
針が太くて痛そうだと不安がっているような患者さんと会ったら、太い針だが針が特殊に研いであるので、慣れたスタッフが勢いよく一瞬で穿刺できれば検査用の検体を採血する時の痛みよりも軽いことが多いと説明してみましょう。

自己血採血の流れをビデオで説明したいのですが、市販の物を紹介して下さい。

埼玉県赤十字血液センターのホームページに「埼玉県合同輸血療法委員会」の入り口があります。それをクリックしていただくと右欄に項目が並んでいて「動画」をクリックして下さい。
・「間違い動画から学ぶ!正しい輸血の看護手順(トラブル防止と対応編)
・「間違い動画から学ぶ!正しい輸血の看護手順(基本編)
・「自己血採血動画マニュアル
と上から順に並んでいますので「自己血採血動画マニュアル」を視聴して下さい。

ウイルス感染陽性者は採血できませんか?

HBV、HCV陽性の症例などは、自己血バッグの保管場所をウイルス陰性症例と分離をすれば採血・保管は良しとします。血液保冷庫を別途準備できることが望ましいです。しかし場所や費用の関係で1つの保冷庫内に収納せざるを得ない場合は、庫内の場所を明確に分けて(例:「陽性者」とラベルを貼ったプラスティックケース内に収納して保冷庫の段に乗せる、など)保管は現実対応として可能です。
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どんな手術の際に対象になりますか?

主な診療科としては整形外科、泌尿器科、心臓血管外科、産科で自己血採血を行っています。整形外科では大腿骨頭置換術、膝関節置換術、脊椎手術。泌尿器科では前立腺切除、腎臓摘出術など。心臓血管外科では弁置換術、人工血管置換術。産科では出血量が多いと予想される子宮筋腫合併妊娠分娩、双胎分娩、上位胎盤早期剥離のリスクのある分娩。消化器外科では大腸切除、肝臓切除など。
心臓血管外科では人工血管置換術、消化器肝臓外科では肝切除術、耳鼻科では鼓膜再建術の際に自己血から調製したフィブリン糊を利用することがあります。

採血回数と日程はどんな感じですか?

1回の採血量は体重とHb値によって以下のような制限があります。Hb値は11.0g/dL以上。妊婦の場合は10.0g/dL以上で自己血採血が出来ます。体重が50kg以上あれば1回採血量は400mL、体重が50kg未満の場合は1回200mLか400mLx実体重(kg)/50と減量します。
自己血の保存期間は全血では採血後21日(MAP液を添加した赤血球液だと42日間)なので手術日までの期間に3回から6回採血が可能です。
急に自己血採血が決まった場合では手術3日前が最後の1回となります。
1回採血量が400mLなら週1回、200mLなら週2回の自己血採血は可能です。

どんな時に採血禁忌になりますか?

  • 微熱があって複数回測定しても37.2℃以上ある場合。普段の平熱より1℃以上高温の場合。
  • 下痢が1日に複数回続く場合
    エルシニア菌による下痢症が心配されます。この細菌が万が一血液中に菌血症として存在して自己血バッグに入ると、血液がバッグ内で低温保管されても、本細菌は低温でも増殖できます)。自己血輸血が菌血症、エンドトキシンショックの原因となります。
  • 伝染性ウイルス感染症徴候(麻疹、水痘、風疹など)がある場合
    伝染性ウイルス感染症徴候を有する患者さんは発症後隔離が必要ではなくなった以後、自己血採血は可能と考えます。既に自己血にはウイルスがフリーとなり抗体が産生されている時期であろうと考えます。
  • 出血を伴う歯科処置(抜糸、歯石除去など)後
    血液中に口腔内細菌が混入しているリスクがあるため、出血を伴う歯科処置(抜糸、歯石除去など)は直後の3日間は採血しません。
  • 細い血管で穿刺が困難な場合
    一人の採血担当者が2回まで、別の担当者に交代して1〜2回程度までで血管確保が出来ない場合は、無理な穿刺努力を続けないことが望ましいです。
  • VVR既往がある患者
    患者さんを診察して可能になる場合もあります。VVRの項を見て下さい
  • その他
    高齢者として特に年齢制限は設けていません。ただし体力が消耗している患者さん、理解力が十分でない患者さんは慎重に採血適応を検討します。精神科疾患の患者さんや理解が十分でない方も慎重に対応します。若年者は保護者同伴を必要とします。

自己血採血パスに記載すべき項目にはどんな項目がありますか

  • 採血予定日、採血予定量、輸血予定日
  • 血液型。感染症の有無。
  • 体重、年齢、年齢(高齢者、小児)、精神科疾患の有無、抗凝固剤服用歴
  • 採血当日の体温
  • 問診票で忌避項目の有無(歯科処置、体温上昇、下痢、流行性ウイルス性疾患)
  • 鉄剤投与予定、量。
  • エリスロポエチン製剤投与予定

次に1例を提示します(埼玉協同病院から提供)

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採血予定量、Hb値と体重と採血上限量について教えて下さい

  • 体重50kg以上、採血当日のHbが14g/dL以上だと、自己血は400mL採血可能です。
  • 体重50kg未満の場合は、200mLのバッグで200mL採血するか、400mLバッグに400mLx実体重kg/50kgの計算式で求められる量まで採血が可能です。
  • 高齢者の場合、細めで一見して頑丈そうに見えない場合には、なるべく採血量は減量して、無理のない、循環動態に影響が少ない量で採血量を予定しましょう。

エポ製剤の適応を教えて下さい

  • 体重70kg未満の場合、採血1週間前の血算でHbが13g/dL未満の場合
    採血1週間前からエリスロポエチン製剤(エスポ―、エポジンなど)を24000単位皮下注してHbの増加を図ります。
  • 採血予定日のHbが14g/dL未満の場合
    自己血採血後に同量のエポ製剤を皮下注します。
  • 体重70kg以上の場合、採血予定日のHbが13g/dL未満の場合
    自己血採血後に同量のエポ製剤を皮下注します。

なお自己血採血が途中でキャンセルになった場合、予定量が採血出来ない場合でも、投与したエリスロポエチンの費用は採血手技料として請求できます。また採血予定量が400mLではなく200mLの場合は、投与するエリスロポエチン製剤の単位数を減量することも考慮しましょう。

鉄剤を投与する際に患者へはどのような注意説明が必要ですか?

鉄剤のせいで便秘、あるいは下痢になる場合もあります。あまりに強い場合は内服を中止し、次回の採血時に医師に申し出るように指示します。多少鉄剤の吸収は低下しますが空腹時内服ではなくても良くて、食事中に内服するなどアドバイスをしておきましょう。
内服の副作用を回避するために鉄剤の静脈投与をする場合もあり得ますが、主治医によく相談するようにアドバイスして下さい。鉄剤の静脈投与は稀にショックの副作用が発生する場合がありなるべく実施しないで済むことが望ましいです。

問診項目と迷う事項

体温は何℃まで許容できますか?

微熱があって複数回測定しても37.2℃以上ある場合や、普段の平熱より1℃以上高温の場合は採血をしません。
外気温が高い時や、急いで採血室に来た際には、なるべく落ち着いてから再度検温して基準範囲内であれば採血できます。

歯科処置は何々を含みますか?

血液中に口腔内細菌が混入しているリスクがあるので、出血を伴う歯科処置(抜糸、歯石除去など)は直後の3日間は採血しません。

下痢が数日前からありますが、軽症の場合でも難しいですか?

下痢が1日に複数回続く場合(エルシニア菌による下痢症が心配されます。この細菌が万が一血液中に菌血症として存在して自己血バッグに入ると、血液がバッグ内で低温保管されても、本細菌は低温でも増殖できます)。自己血輸血が菌血症、エンドトキシンショックの原因となります。

内服薬で採血が禁忌となる薬はありますか?

献血時の問診時に薬剤の種類によっては服用歴が献血できない理由になります。それは血液が他の患者さんに輸血されるためです。患者さんがもしもペニシリンアレルギーを持っているような場合に、ペニシリン系抗生剤を服用中の献血者からは献血を辞退してもらうような配慮が必要だからです。また血小板機能を低下させるような薬剤を服用している献血者から採血した血小板浮遊液は機能が低下しているため、輸血効果が低いことが予想されます。
自己血の場合は自分の血液がまた輸血されるのですから、特に薬剤の服用歴には神経質になることはありません。ただ、採血後の止血が困難かどうか、抗血小板薬や抗凝固薬の服用歴は聴取して、もしも「あり」の場合は採血後の止血に時間をかける必要があります。抜針後5-10 分間(抗血小板製剤服用患者は10〜15 分,ワルファリン服用または直接作用型 経口抗凝固薬(DOAC)服用患者は15〜20 分間程度)圧迫止血します。
抗生剤を服用している場合は、背景に病態があると考えられますので、感染症などがあり体調が不良であると予想して、採血は延期することを勧めます。

急性ウイルス感染症の既往がある場合、採血はどれくらいの期間できませんか?

伝染性ウイルス感染症徴候(麻疹、水痘、風疹など)を有する患者さんは発症後隔離が必要ではなくなった以後、自己血採血は可能と考えます。既に自己血にはウイルスがフリーとなり抗体が産生されている時期であろうと考えます。

採血準備・消毒法・採血装置・採血実施

自己血ラベルには何を記載しますか?

氏名、生年月日、ID、有効期限、血液型、採血者氏名、を記載します。
採取実測量、赤血球液か新鮮凍結血漿か自己フィブリン糊か製剤種名を記載します。
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バッグに貼付されているラベルに直接記載しても良いですか?

マジックペンのインクには、バッグ素材に変化を与える成分が含まれている可能性があるため、別のラベルに署名してバッグに貼付するのが良いです。

バッグを取り出したら少し濡れていました。使って大丈夫ですか?

滅菌法(EOG滅菌:エチレンオキサイドガス滅菌)の条件のためにバッグの表面が濡れている場合があります。表面が湿っている程度であれば問題ありません。
漏れている量が多い場合はバッグの破損と液漏れが危惧されます。別のバッグを使用して下さい。
バックが破損していないかどうか、曲げたり押したりして確認をしてください。

採血バッグの種類にはどんなものがありますか?

全血用の200mL用と400mL用のシングルバッグや、全血から血液分画を製造するための4連バッグがあります。

皮膚の消毒法を教えて下さい

ポピドンヨード綿球で穿刺部を中心に外向きに広げるように丸く、直径10cm以上の皮膚を消毒します。 ポピドンヨードは液体が乾燥することで消毒効果が出るので2分以上は放置します。塗布した場所は触りません。
ポピドンヨードアルコール(イソジンフィールド)は30秒くらいで消毒効果が出ます。ただしアルコールアレルギーのある症例には適応しません。
ヨード過敏症の患者には、ポビドンヨードの代わりに0.5%グルコン酸クロルヘキシジンアルコールを用います。
指先を消毒して直接穿刺部の皮膚を触ることは禁止です(施設によっては指先の消毒を短時間で済ませている事例が多いようで消毒効果が不足していると考えます。消毒は濡れていても十分であると誤解しているスタッフがまだまだいるようです。)

穿刺部位ですが腕、下肢、中心静脈ラインの選択について教えて下さい。

正中肘静脈を最優先とし、尺骨側はなるべく回避します(正中神経が近くを走っているので、万が一正中神経障害を起こすと神経麻痺など後遺症が残りやすいので)。
下肢で見えている血管は穿刺できた場合でも十分な採血量が採血できないことが多いため、なるべく選ばないようにします。また鼠径部の大腿静脈を穿刺する際は消毒が困難で、不潔になりやすいと予想されます。
中心静脈はラインが長いので、採血時の採血抵抗が強く採取速度が保てないことが多く経験されます。また接続部を一旦外すことから、無菌に保つべき中心静脈ライン自体の汚染リスクが増えるリスクがあります。

撓側皮静脈を穿刺する際の留意点はなんですか?

皮下組織が薄く血管自体が動きやすい傾向があります。血管を末梢側へ十分に引っ張って穿刺しないと逃げやすく、また、皮神経の分布が多めで痛みが強い場合があり、穿刺後に血栓ができやすいと報告されています。

血管穿刺前の準備として血管を怒張させる工夫はありますか?

病院の検査では食事抜きで採血される場合が殆どなので、食事を抜いて自己血採血室へ見える患者さんが多くおられますが、食事は食べてもらい水分摂取も励行します。腕をしばらく下げてもらい、前腕に血液を貯める時間を設けます。

うっかり動脈を穿刺してしまいました。その際の注意点を教えて下さい

静脈穿刺が別の部位ではどうしても困難な際は、動脈ラインを例外的に使用する場合があります。ただし、採血速度が速くなり過ぎる傾向があります。ラインを半分閉鎖するなどして速度調整しながら採血します。
採血後の点滴ラインとしては使用出来ません。
抜針後の止血時間は強めの圧迫で20分以上と考えて下さい。

肘の尺側側を残念ながら穿刺する場合の注意点を教えて下さい

正中穿刺よりは尺側側は皮膚の穿刺時の痛みが強い傾向があります。
関節の柔らかい患者では固定時に針が反りやすいので注意が必要です。
動脈と平行して正中神経が走っているので、拍動がある直上の静脈は避けます。

駆血帯の巻き圧、どう加減しますか?

穿刺までは血管怒張するよう、ややきつめに駆血します。
穿刺が出来て固定し採血段階に入った後は外さない程度に減圧します。
採血に10数分間かかるので、採血中は多少緩めないと抜針後に神経痺れが出る恐れがあります。

ペアンの種類と留意事項を教えて下さい

金属製ペアンとプラスティック製ペアンがあります。
金属製ではラインの閉鎖の度合いが強く、穿刺時にラインへの逆血が少な過ぎて見づらい傾向があります。
プラスティック製ペアンでラインを閉鎖することを勧めますが、ペアンが緩すぎると針のキャップを外した途端にラインの中の抗凝固剤が動き針先からライン内にエアーが入ってくるのが見えます。この動きがなるべく少量になるように、ペアンにかける適度な力加減を工夫しましょう。

固定方法に工夫がありますか?

針を皮膚に密着して貼ると、針先が血管の壁に当たり血液が流れなくなることがあります。そのため、針は皮膚面に対してやや斜めに固定することを勧めます。(Ω形固定、針の根元にアルコール綿を挿入して固定(針枕の利用)など)
バッグのラインに付いた曲がり癖で針先に回旋が生じることがあるので、ライン部を固定する際に工夫しましょう。
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採血困難時、採血中断時の対応

採血困難時の工夫は何かありますか?

  • 柔らかい材質で出来たグリップ用具を渡して、ゆっくりの速度でOKなので握ったり開放したりしてもらいます。これで血液がプールされ血管が拡張し、採血がスムーズになる傾向があります。
  • ローラーペンチでラインをバッグ方向へしごいて圧をかけます。
  • 駆血帯を少し強めに縛りなおします。
  • 針先を若干の角度ですが回転させて貼り直します。
  • 固定テープの一部を剥がし、針の挿入角度を若干上下に動かして貼り直します。
  • 針先を少しだけ抜きます。例えば1mm程度。(押し込まないようにします。押し込むと殆どの場合は血管漏れが生じます)。
  • 採血装置の吸引を「オフ」から「弱」に変更させて採血ラインに吸引圧をかけます。
  • 採血装置の吸引を「弱」から「オフ」に変更させます。針先が血管壁に当たって陰圧がかかっていると予想された場合です。
  • 諦めて抜針します。
  • 採血が何とか終了してもライン内や針先の血液が凝固していることが多いです。採血後の輸液の際に点滴漏れが殆ど必発で発生します。注意下さい。

採血中断してしまいました。何か工夫がありますか?
採血バッグにどれくらいの血液が採血できれば使用可能ですか?
採血バッグに半分以下の血液しか採血できませんでしたが、廃棄するには忍びません。何か良い方法がありますか?

採血量が少ない場合は、規定量の半分以上採血が出来れば担当医師に承諾を得たうえで輸血に利用可能ですが、抗凝固剤の割合が多くなっているため、クエン酸中毒に気を付ける必要があります。
採血量が過剰だった場合、10%未満(例えば、400mLの血液バッグに440mLまで)であれば、使用可能と考えています。

引用文献:MEDICAL TECHNOLOGY Vol.44 No.11,2016 年 11 月,診療科から輸血部門への問い合わせ対応.

採血目安時間というのはありますか?

200mLで10分程度、400mLで15分程度を目安とします。ただし、流量が停止した場合に1分程度以内に再開しない場合は、針先に凝集塊できているため、中止も考慮します。

ローラーペンチの使用方法と注意点を教えて下さい。

ローラーペンチをしごく方向は、穿刺針からバッグ側へ向かった方向です。ライン内の血液を穿刺針の方向へしごくことはしません。ライン内、針先に血液凝集塊が形成していた場合には、これを血管内へ飛ばすリスクがあるからです。
ローラーペンチでしごきながら、針先を少し回旋させることができればより有効だと予想されます。

ローラーペンチを使用して採血した血液が凝固しやすいと聞きましたが、使わない方が良いですか?

ローラーペンチを使用するということは、既にある時間、血流が停滞していたことが予想されます。何度もローラーペンチの助けを必要とした場合にはバッグ内に血液凝固物が混入している場合が多いはずです。ただし、採血が順調に行かず抜針を考える時点で、1度くらいはライン部をしごいて、穿刺針先の血流再開が誘導できるか否か、挑戦することには意味があると考えます。

採血後の輸液と注意事項

点滴製剤の種類、輸液量について教えて下さい。また採血ラインとは別に点滴ルートを確保するのでしょうか?

採血量相当量の輸液を原則行います。400mL採血では500mLの生食、200mL採血では250mLの生食を輸液します。生食以外に電解質、ブドウ糖が添加されている輸液製剤の場合、これらの成分が急速に輸液されて体調不良が生じる場合があるため、なるべく生食を選択します。
採血バッグの穿刺ラインについている接続部の蓋を開けて点滴ラインを接続し、そこから輸液を行います。点滴用に新たに別の部位に穿刺をしないで済ませます。ただし点滴中に漏れが生じた場合は、別ルートを準備します。
点滴開始後、最初の頃は点滴漏れがないことを確認しながら徐々に速度を上げて行きます。途中からはクランプオフで開放状態で点滴しても大抵は大丈夫です。ほぼ10分で500mLが点滴できます。ただし、輸液製剤は室温に保存されているので、約25℃前後と体温に比べて低温のため、輸液中に局所の冷感を訴える場合があります。その際は輸液の速度を減少させる、穿刺部付近をホットパックで温める、など工夫しましょう。

チューブシーラーの種類とお薦め製品を紹介して下さい。またシーリングするタイミングも教えて下さい。

充電式で患者穿刺ライン近くに運んで扱えるハンドシーラーを選択します。万が一漏電した際にライン・針を伝わって患者が感電しないように、固定式シーラーを使用する場合は採血ラインを抜いてから使用します。
採血完了後、点滴用の側管ラインより上の箇所でシールし、バッグを分離します。
側管ラインはカバーをちぎってから輸液ラインを接続するように使います。
切断したバッグは切断端を持ち、ローラーペンチでライン内の血液を採血バッグ側へ押し出します。ローラーペンチを閉じたままバッグを一度攪拌します(ライン内から戻した血液をバッグ内血液と混合させるため)。ローラーペンチは閉じたままバッグ近くで約15cm(ラインに製造番号が印字されているので3個分くらい)の箇所でラインをシーリングします。この後、ローラーペンチを開放します。製造番号分距離を離して、ラインに3箇所シーリングします(セグメントを3つ作成しました)。

採血後のバッグの処理方法を教えて下さい。

  • 採血後、点滴ラインの結合部の上でハンドシーラーにてシーリングし切断します。切断端を持ち、ローラーペンチでライン内の血液を採血バッグ側へ押し出します。ローラーペンチを閉じたままバッグを一度攪拌します(ライン内から戻した血液をバッグ内血液と混合させるため)。ローラーペンチは閉じたままバッグ近くで約15cm(ラインに製造番号が印字されているので3個分くらい)の箇所でラインをシーリングします。この後、ローラーペンチを開放します。製造番号分距離を離して、ラインに3箇所シーリングします(セグメントを3つ作成しました)。

自己血バッグとセグメントと自己血ラベル、情報用紙(採血量が足りない場合に実測量を記載する、事前にウイルス検査陽性と判定していた場合は結果)を透明バッグに収納します。輸血部へ搬送するまでの時間は血液保冷庫内に静置して保管します。
自己血バッグを製剤を管理する部署まで搬送する際は、外から内部が見えないよう搬送箱(バッグ)に収納して搬送します。たまたま血液バッグを見た患者さんがストレスを感じないようにする配慮です。

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採血後の患者観察時の注意にはどんなものがありますか?

輸液の点滴速度が速いので、低温による不調を訴えることがあります。慣れるまでは輸液速度を遅くするか、穿刺部に温パックを乗せて慣れてもらいましょう。
採血時から途切れ途切れの採血不良があった場合は、針先が血管の中と外と両方にまたがっている可能性があります。何とか採血はできても点滴の際には最初から漏れてきます。患者さんが痛みを訴えたら速やかに対応しましょう。抜針し残りの点滴を別ルートから実施します。
遅発性VVRにより、患者さんが不快感を訴えることがあります。また、患者さんが寝てしまって点滴穿刺部が曲がってしまい点滴漏れすることもあります。

採血後に与える注意点にはどんなものがありますか?

  • ベッドから起きて最初にトイレをする際は必ず座って行うように指示して下さい。立って排尿すると、体位性低血圧など生じて転倒するリスクがあります。これは献血会場で稀に経験される体調変化です。
    ・次の採血までに服用してもらう鉄剤は便の色を黒色に変化させます。黒色便は薬のせいだから決して心配しないように患者さんには説明します。
  • 鉄剤のせいで便秘、あるいは下痢になる場合もあります。あまりに強い場合は内服を中止し、次回の採血時に医師に申し出るように指示します。多少鉄剤の吸収は低下しますが空腹時内服ではなくても良くて、食事中に内服するなどアドバイスをしておきましょう。内服の副作用を回避するために鉄剤の静脈投与をする場合もあり得ますが、主治医によく相談するようにアドバイスして下さい。鉄剤の静脈投与は稀にショックの副作用が発生する場合がありなるべく実施しないで済むことが望ましいです。
  • 「気分が不快になったら、周囲を見渡し危険ではないと判断できればその場にしゃがみこんで下さい。」「必要があれば周囲の方に助けを求めましょう。」「病院の連絡窓口に事情を電話で報告して下さい。」等、外来で自己血採血を実施した場合は、身体症状出現時の病院の連絡先、VVRが発生した際の対応案などを説明します。

VVR発生と対応

VVRの症状を教えて下さい。

以下にVVRのグレード表を添付します。

表

供血者保護のための採血基準設定に関する研究.厚生省血液研究事業.昭和59年度報告書.59-64,1985をもとに作成

VVR回避のための体操があると聞きましたが?

LEG CROSS運動 (下肢筋緊張運動)が血液センターで採用されています。その紹介図を添付します。


日本赤十字社ウェブサイト(https://www.jrc.or.jp/donation/about/before/)

VVRが起きてしまいました。どう対応すればよいですか?

  • まず採血を中断します。穿刺ラインは抜去せず必要時の点滴ラインとして利用できます(ただし数分間、採血が止まると針先は凝固塊で閉鎖してしまうので、点滴ラインとして利用するためには迅速に決定する必要があります)。
  • 下肢挙上、声かけをします。
  • そうならないように事前に出来る限りリラックスを図る予防策を取りましょう

VVRの既往ある症例への対応はどうしますか?

  • なるべくなら自己血採血はせず、同種血輸血による術前準備を進めましょう。
  • 本人の希望が強い場合は自己血採血にも応じましょう。なるべく患者さんがリラックスするよう事前準備して採血ラインを確保します。穿刺操作に過剰なストレスを感じる患者さんの場合は、表面麻酔薬(ペンレステープ等)の貼付も考慮しましょう。
  • 採血後の輸液は必ず実施し、ベッド上に背臥位で15分以上は休ませましょう。

採血バッグの処理と保管と外観検査

自己血はどれくらい保管できますか?

2〜6℃の保冷庫内で全血なら35日間、MAPバッグなら42日間です。有効期間内であれば、保存期間は医療機関で決めて構いません。日赤から供給される全血の有効期間が21日なので、施設によっては21日間に制限している施設もあります。その場合は最大で400mLが3バッグまで貯血できます。
採血のスケジュールがどうしても調整出来ない場合で、血液センターと事前に相談し了解が得られれば、施設で採血した自己血を血液センターで凍結保存し、必要な時点で解凍・洗浄してもらい自己血輸血に利用することも可能です。ただし手間がかかる作業なので、なるべく採血の日程調整で対処します。また、解凍・洗浄の過程で溶血による血球ロスも当然生じてしまいます。解凍・洗浄後の自己血は、処理後4日間が有効期間です。
全血を遠心分離して赤血球液と新鮮凍結血漿を製造した場合、使用しなかった新鮮凍結血漿は次回の手術にも輸血製剤として利用できますが、その有効期間は製造後1年間までとします。

バッグ保管中の外観検査の方法を教えて下さい。

輸血部へ搬送後はラックに立てて(セグメントが出ている方を上に)静置します。1週間に1回程度、上清の色(溶血、細菌汚染による黒色変化)、凝集塊の有無等の外観確認をします。その後バッグを攪拌して再度そのままラックに立てて保管します。

自己血保管時・出庫時の外観チェック項目を教えてください。

輸血部へ搬送後はラックに立てて(セグメントが出ている方を上に)静置します。1週間に1回程度、上清の色(溶血、細菌汚染による黒色変化)、凝集塊の有無等の外観確認をします。その後バッグを攪拌して再度そのままラックに立てて保管します。下図に細菌汚染時の血液バッグの外観を示します。右写真は細菌汚染による溶血、黒色変化を示します。

日本赤十字社医薬品情報ウェブサイト 細菌接種後の輸血用血液製剤の外観変化

保管中の自己血に凝集がみられた場合の対処方法を教えてください。

@患者が寒冷凝集素を持つ場合は、冷蔵保管中の外観点検時に血漿に浮遊させた赤血球に凝集塊やざらつきが観察されます。主治医に連絡し寒冷凝集素を検査してもらい、凝集素の有無をチェックします。血液バッグの保管は継続します。
Aジッパー付きビニールバッグに収納した血液バッグを37℃の恒温槽で加温すると、血液温度が上がるに従い血漿中のざらつきが消失します。そのタイミングで患者ベッドサイドに搬送し、輸血を開始します。
B輸血中に血液バッグが室温のため冷えて、ざらつきが再度発生する場合は、血液加温器で輸血ラインを加温しながら輸血することを勧めます。(下図に血液型検査実施時の赤血球凝集のパターンを示します。このような凝集が寒冷凝集素陽性時に認められることになります)
C保管中に気付かず、血液バッグ出庫時に気がついた場合は、寒冷凝集を疑ってAと同様に加温し、ざらつきが消失する場合は輸血します。
D採血時のトラブル(採血が中断しながらも時間をかけてできたような場合)があり、血液バッグに大きな凝集塊が目視できるような場合は、そのまま輸血すると、輸血セットのスパイク針に凝集塊が目詰まりして輸血が停止します。そこで輸血ラインは接続したままでラインをクランプし、バッグにあるもう1か所の穿刺部位に新しい輸血セットを挿入します。バッグを適切に攪拌し、穿刺場所を一番下に保持(バッグは多少斜めに保持)して待ちます。しばらく待つと大きな凝集塊は血液層の上の面に移動し穿刺針の部位からは遠くなるのでそこで輸血を開始します。このスパイク部分が再度目詰まりした場合は、返血を諦めます。
E輸血セットにはスパイク針が3孔タイプと1孔タイプがあります。1孔タイプの方が目詰まりチャンスが少ない傾向があります。この穴を通過した凝集塊は下のフィルターでろ過されるため、大きな凝集塊が患者に輸血されるリスクはほぼ無いと考えて下さい。

引用:日本輸血・細胞治療学会 輸血テクニカルセミナー2014 実技テキストVer.1.1

保冷庫の条件を教えてください。

@血液保冷庫を準備します。庫内温度をリアルタイムで表示し、温度チャートが記録されるタイプを勧めます。庫内に棒型温度計を置き、定期的に両方の温度表示が一致していることを点検し、記録をします。
A自動測定温度計がセットされた温度域を外れた際には警報が鳴るようにセットします。この警報スイッチは常時オンで、決してオフにはしません。また血液保冷庫の警報は検査室だけでなく当直室(あるいは医療施設の警備室)にも連動するようにシステムを組みます。異常事態が発生した際のスタッフの連絡網も構築しておきます。
B全血バッグを保管する以外に、凍結血漿を保管する施設では、マイナス20℃以下で製剤バッグを保管できる冷凍庫を設備します。@と同じく外部表示温度と内部に設置した温度計と両者を点検します。警報システムは同様にします。ドアが中途半端に閉められた状態で庫内温度が上がり、凍結血漿がシャーベット状、解凍された状態になったという事例が報告されていますので、要注意です。
C家庭用冷蔵庫は庫内温度が0〜10℃程度変動するため、輸血用血液保冷条件である2〜6℃を常時維持できません。また他の冷蔵品(薬剤、ワクチン、インスリンシリンジなど)と一緒に保管しているような場合は、ドアの開閉回数が多くその都度、庫内温度が上がりますから一定範囲の温度条件を維持できません。家庭用冷蔵庫の庫内には冷風が直接当たり0℃前後に下がる場所があります。そこに血液バッグが置かれると血液が凍結するリスクがあり、冷蔵庫から出された後に解凍され赤血球が溶血する危険があります。

輸血前の準備として生食クロスマッチはなぜ必要ですか?

血液が本人のものか否かは貼付されたバッグラベルで確認が出来ます。ただしダブルチェックの方法として患者検体とバッグ内検体が同じ血液型であることや、他人が保有するかもしれない不規則抗体で凝集しないこと、を確認することが生食クロスマッチ検査を実施することで可能になります。

自己血輸血(返血)時の注意

バッグ穿刺時に穿刺部漏れがあると聞きました。回避する方法を教えて下さい

  • 400mL全血バッグは抗凝固剤も含まれているため、日赤から供給される赤血球液バッグに比べてパンパンな状態です。スパイク針の1段目の位置までしか穿刺していないと血液漏れが生じます。2段目まで深く刺すように注意します。
  • 点滴台にバッグを吊り下げてバッグ穿刺すると、血液漏れ頻度が高いです。バッグを穿刺する際は水平になった台の上で注意深く穿刺するようにします。
  • 漏れたら慎重に輸血セットを抜き、部位をペアンで閉鎖して下さい。もう1か所の穿刺孔を穿刺します。この穿刺の際にももう一度漏れた場合は、バッグは使用できなくなってしまいます。(漏れるのは内部から外に向かった血液の動きであるため、外から汚染がバッグ内に入るリスクはほぼないため、穿刺孔の周囲を確実に消毒して、同じ穿刺孔を2度利用することをOKとするかダメとするか、事前に施設の取り決めを策定をしておくことを推奨します。)

輸血中の患者観察の方法を教えて下さい

  • 自己血は手術中か術後ICUか一般病棟管理中に輸血されるケースが殆どです。発熱、血圧低下・上昇などは輸血副作用と考えられます。また急速輸血によって循環血液量負荷が大きな場合の心不全様症状出現も起こりえます。
  • 通常の輸血と同様に、輸血前、輸血5分後、15分後、1時間後、終了時には血圧、呼吸数、脈拍、酸素飽和度を測定しましょう。

輸血不良時の対応について教えて下さい

バッグから慎重に輸血セットを抜き、穿刺部位をペアンで閉鎖します。もう1か所の穿刺孔を別の輸血セットで穿刺して使います。なお、バッグ内の凝集塊を新しい穿刺針の先に吸引しないように。凝集塊が輸血前に目撃できた場合は、バッグを十分攪拌してから輸血セットを刺し、穿刺場所を低く保って点滴台にバッグをしばらくの間吊るし、凝集塊が上の面に浮遊するまで待ってから輸血を開始するようにします。

凝集塊が出来る理由はなんですか?

  • 採血不良時
    採血ラインの中で抗凝固剤と触れない時間が長くなり、ライン内で凝固が始まります。患者自身の凝固亢進状態にも依り、妊婦さんは妊娠末期に凝固亢進状態になっています。他にも、白血球数が多い患者、特に炎症性疾患で白血球・顆粒球が多くなっている患者では、白血球からの放出物質や刺激状態の顆粒球膜表面の凝固促進物質などのせいで、ラインの中の血液が固まりやすいことがあります。

術中、術後に輸血すべきか輸血しないかの選択について教えて下さい

  • 同種血輸血で設定されている輸血トリガー値までは輸血しない、と厳格に数値を意識しないで良いと思います。手術直前の血算のHb値より術後に下がった場合に輸血をするという施設もあります。
  • 輸血しない場合、輸血料は算定できませんが、採血手技料は請求できます。それぞれの金額を明記すると、自己血貯血量は200mLごとに2,500円、自己血輸血は200mLごとに7,500円です。通常の自己血400mLを採血し輸血出来た場合は計20,000円の保険請求が出来ます。

高齢者、小児、産婦の自己血採血

高齢者でも採血できますか?

  • 高齢者として特に年齢制限は設けていません。ただし体力が消耗している患者さん、理解力が十分でない患者さんは慎重に採血適応を検討します。精神科疾患の患者さんで、理解が十分でない方も慎重に対応します。

小学生、中学生でも採血できますか?

若年者は保護者同伴を必要とします。

産婦の採血時の注意事項を教えて下さい。

  • 胎児心拍監視装置セットを必ず装着して、胎児心拍数をモニターしながら心拍数の管理幅に入っている状態を担保します。もしも管理幅から外れる(心拍数が減少する)場合は採血を中断することも考慮します。
  • 体位が悪くて下大静脈を大きくなった子宮で圧迫し心臓への血液還流が低下した際には、低還流による症状が出現することがあります。(仰臥位低血圧症候群;子宮と胎児が下大静脈を圧迫して下肢からの静脈血還流が減少するために発生する病態)。基本的には妊婦さんに楽な体位を取ってもらいましょう。

妊婦さんは循環血漿量が増えているようで、採血速度が速くなってしまいます。大丈夫でしょうか?

確かに採血速度が速い場合が多いです。ベッドと採血装置の落差を縮めたり、採血中は駆血帯を外すなど工夫します。
また、採血ラインを曲げたり少し折ったりして採血速度を下げる、など工夫をする場合があります。

自己血輸血Q&Aへの質問がある方、また追加の質問をお持ちの方は、
st-godoyuketsu@ktks.bbc.jrc.or.jpへご連絡ください。

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